本屋で会計をしていると、後ろから中年男性が割り込んできた。「これ社長に渡して。いつものやつ作ってきた。」とレジ打ちに紙の束をつきだす。「見せれば分かる」とのことで、レジ打ちは言葉を返す隙を与えられず、なんとなく受け取ってしまったように見えた。私は何が渡されたか分かる。前の職場で似た景色を見たことがある。あれは自作の新聞だ。ふらりと現れるおじさんが「しんぶーん」と言いながら断りもなく手作りの冊子を置いていく。中身は新聞と辞書の切り抜き。新聞記事の言葉に線を引き、そこに辞書の切り抜きを繋げて、さらにその辞書の言葉にも辞書の切り抜きを繋げていく。最終的にとことん分解されて全く意味をなさないものになっていた。余白には意味の分からない詩が数行載っていて飽きさせない。また別のおじさんは、芸能界を牛耳る悪党を糾弾する手紙を送ってきたこともあった。和田アキコと飯島愛の似顔絵付きなのだけど、全く似ておらず、志村けんの変なおじさん風だった。